お茶が飲みたくなる空間演出?
イマーシブ体験には、映像や音、香りなどを通して、人の気持ちを少し動かす力があるのではないかと思うことがあります。たとえば、落ち着いた空間に入ると深呼吸したくなったり、湯気や水のゆらぎを見ると何かを飲みたくなったり。そういう小さな反応は、普段の生活の中にもたくさんあります。その気持ちの変化を、空間演出として意識的につくることができるのか実験してみたいと思いました。
もし空間演出が、人の気持ちを少し動かし、その先の小さな行動につながるなら。それは、商品やサービスの紹介だけでなく、健康、地域文化、環境、観光など、社会的なテーマにも応用できるかもしれません。まずはとても身近な「お茶を飲みたくなる」という問いから、体験と感情、行動の関係を探ってみます。
お茶を飲みたくなる空間をつくるために、まずは人の気持ちや身体の反応に関わりそうな心理学の考え方を探してみました。寒色系の光で落ち着いた状態に入りやすくすること、ゆっくり動く映像でDMN(自分自身の感覚や内面に意識が向きやすい状態)を促し、目の前の対象に集中しやすくすること、湯気や一滴の茶を思わせる表現でプライミング効果を狙うこと、香りを使って記憶に残りやすくすること、AWE(圧倒されるような美しさや静けさによって、自分を取り巻く世界へ意識が向く感覚)を生み出すこと、最後にピークエンドの法則を意識して余韻をつくること。こうした心理学のヒントを、映像、音、香り、光の演出に置き換えながら、体験後に自然と「お茶を飲みたいかも」と思える流れを考えていきました。
仮説をもとに、イマーシブテクノロジーEXPO 2025のシンユニティブースで実際に展示を行いました。会場の中に囲われた体験空間をつくり、カーブLEDによる映像、イマーシブオーディオ、照明、香りを組み合わせて、6つのシーンを体験してもらう構成です。
演出で気持ちが動いたかを確かめるために、来場者アンケートも設計しました。香りについては感性工学の印象因子を参考にしながら、今回の体験に合う言葉へ調整。没入感については、フロー理論で言われる時間感覚の変化や、選択的注意の考え方をもとに、体感時間、周囲が気にならなかったか、自分がどこにいるか曖昧になったかを質問に入れました。また、五感すべてをまとめて聞くと答えにくくなりそうだったため、音は全体を通した印象として、映像は特に心理的な反応を見たかったAWEとDMNの2シーンに絞って質問を設定しました。回答はGoogleフォームで集め、質問順はランダムにして、順番による影響が出にくいようにしています。
展示期間中は約2,000名が来場し、そのうち860名がアンケートに回答。体験後に「お茶を飲みたくなった」と答えた人は190名で、回答者全体の約22%でした。
今回の実験で見えてきたのは、空間演出が人の気持ちや行動に少し関われるかもしれない、ということです。一方で、まだ分からないことも多くあります。お茶を飲みたくなった理由が、映像によるものなのか、音によるものなのか、香りによるものなのか。あるいは、空間に入ってから出るまでの流れ全体によるものなのかは、今回の結果だけでは切り分けきれません。
また、アンケートを見ていくと、イマーシブオーディオの感じ方には年齢層による違いがありそうなことも見えてきました。特に若い年代の方が、音による没入感や空間の変化を感じやすい傾向があり、同じ演出でも、受け取り方は人によって少しずつ変わるのだと感じました。
次に試すなら、香りの有無で比較したり、シーンごとの印象をもう少し細かく見たり、年齢層ごとの反応の違いを追ってみたり、体験後に実際にお茶を手に取ったかまで見てみると、より具体的に分かりそうです。





